
大学の医学部への進学を志して日々努力を重ねておられる皆さん、またその保護者の皆様に、深い敬意と大きな声援を送ります。
これまで主として日本での教育を修得してこられた方は、その延長的に、高等教育についても日本で受けることを念頭に置いておられるかと拝察しますが、ここでは、外国の大学の医学部での勉学、特にルーマニアの大学での医学の修得も、お勧めしたく思います。
私は、日本の政府の代表者として2020年末までルーマニアで勤務、居住し、またその後もルーマニアの友人、各方面の関係者と交流を続けています。
こうした経験の中で、ルーマニアが留学にたいへん好適、有利な国の一つであり、医学部もそのよい例であることを感じてきました。
私は医師や医学者ではありませんので、ここでは、主としてルーマニアの一般的な生活環境、留学環境について御案内します。
極めて居心地のよい、また留学生が学問に努力を集中しやすい社会や教育環境の国であり、さらに医学部卒業の結果の効用も大の国、と思います。
まず、(この点は特に保護者の方も御心配される点の一つかと存じますが、)安全に生活し、安心して勉学に取り組むために最大の必要条件の一つである治安面や医療·衛生面で、十分に安心できる国です。
全般的に政治は安定しており、したがいまして、社会変動などによる安全面での変化等への心配がほぼ不要です。現在、いわゆるポピュリズムや極右の台頭、自国第一主義的な主張の伸長等により、国の内外で情勢不安定の懸念が見られる国が、ヨーロッパでも少なくありませんが、ルーマニアは、民主主義、自由主義、欧州の協調等において、確固たる立場を維持、推進している国の筆頭の一つです。(もちろん、場所の如何によらず不可欠な、常識的な安全意識は必要であることは、言うまでもありません。)
また、経済は、西欧諸国との比較ではまだ遅れていますが、EU(欧州連合)への加盟以来、着実に発展を続けています。もとより、国土面積や人口において欧州の中では大国の一つであり、さらに、人材や資源(エネルギー資源、農業生産力等)にも恵まれて、今後のさらなる成長も大いに期待できる国です。これら、政治、経済、社会の各側面での制度の構築やその運営の公正な発展に努めている結果の一つとして、例えば、2024年から「シェンゲン協定」と呼ばれる国際約束の枠組みの加盟国にも迎えられ、一定の出入国の手続が大いに便利になりました。
なお、医療面については、ここでは「深入り」しませんが、具体的な一例として、私事ながら、私ども夫婦がそれぞれルーマニアの医療には大いにお世話になり、いずれもよい対応をいただいたと感じていることだけ、申し述べておきます。
さらに、国のこうした全般的な方向性の下で、日本との間でもたいへん密接かつ友好的な関係を維持、増進しています。多くの日本企業が現地で御活躍で、ルーマニアの経済や現地の方の就業にも貢献しておられます。つい数年前(2021年)には、両国の外交関係の開設から100周年を迎え、その機会に、将来に向けて協力のさらなる発展の基礎とすべく「戦略的パートナーシップ」と名づけた協力関係を結びました。個々人のレベルでも、現地に行かれれば、日本や日本人、また日本の文化や精神性が、大きな敬意と好感をもって迎えられていることを、すぐに感じられることと思います。
いわゆる「ラテン系」を称する社会であることの一環かとも思われますが、明るく寛容な社会です。また、これもその一部かもしれませんが、外国語の能力に秀でた方のたいへん多い社会です。例えば、社会全般、日常生活において英語の通用度がルーマニアほど高い国は、多くないと思います(ヨーロッパでは、北欧のいくつかの国とともに、ルーマニア人の外国語使用能力はトップクラスにあると思います。なお、日本語を勉強している方も多く、たいへん上手な日本語を駆使される方が珍しくありません。)。
このことは、高等教育においても同じです。即ち、英語を始めとする非現地語(ルーマニアで言えば、ルーマニア語以外の言語)による教育、学習が、極めて受けやすい数少ない国の一つであろうと思います。授業や試験といった限られた「正式な」側面のみならず、教員や仲間の学生との学問的な議論から日常の「世間話」まで、あらゆる局面の意思疎通や交流を概ね英語だけで行うことができる国、社会は、多くありません。私は、主として現地で勤務する間に、多くの大学の関係者や学生さんとも交流する機会がありましたところ、英語で可能な活動ややりとりの裾野の広さに、常に大きな感銘を受け、自分自身にとってのありがたみとともに、一種の尊敬も感じていました。
同時に、下世話な話かもしれませんが、大学の学費を含めた物価が欧州諸国の中ではまだまだ安いことも、実際面で大きな利点の一つと思います。
医学教育自体のあり方や学位の取得後の成果等においても、上に述べました、発展途上の開かれた国、社会であることや、EUの加盟国であること等を反映して、有利な点(教育に用いられる言語、入学審査のあり方、修得学位や資格に与えられる特典等)がいくつもあるものと承知します。
しかし、これらの点については、専門家でない私が詳細に論じようとすることは最適なことではないと思われますため、これらは御専門の方にお譲りすべきものと思います。これまでルーマニアでの医学の修得の可能性に既に関心を持っておられた方はもちろん、それ以外の方も含めて、ぜひ以下のMSA(Medical Students Abroad。高木保之代表)さん等に詳細を照会してみられることをお勧めします。
MSAさんの高木代表は、ルーマニアに長く御在住で、現地社会に確固たるお立場を築いてこられ、同時に、私を含めたいわゆる現地駐在日本人とも多く交流してきておられる方です。上にも述べましたように、ルーマニアでの居住、留学、特に医学部進学等を検討される方におかれては、相談の機会を持たれることを強くお勧めします。
長い御滞在、御活動を通じてルーマニアのことを熟知しておられることに加え、何よりも、御自身が、ルーマニアで大学の医学部を御卒業、医師資格を得られると同時に、現地で開業もされました。
さらには、ルーマニアへの日本の留学生さん全般に対して、奥様ともども、長年にわたり、居住、学習の両面で、極めて貴重な支援や協力を提供してこられた方でもあります。
保護者の方、進学を検討しておられる方御本人の双方にとって、有意義な御助言が得られることと確信します。
ルーマニアは、豊かな自然と多彩な歴史、温かい社会に恵まれた、魅力的な国でもあります。
皆様方の、進学における御成功と、その後の学業面での大きな御発展、同時に現地での楽しい生活を、心からお祈りします。
元駐ルーマニア特命全権大使
野田仁

